2017年6月25日日曜日

「林道」「林業専用道」「森林作業道」の中で必要のないものはどれか?

「平成21年度 森林・林業白書」によると、日本の林内路網密度は17m/ha(林道等13m/ha、作業道等4m/ha)で、オーストリアの89m/ha(林道等45m/ha、作業道等44m/ha)、ドイツの118m/ha(林道等54m/ha、作業道等64m/ha)に比べて大きく劣っています。ヨーロッパのタワーヤーダがどんなに機能的に優秀でも、それを使うための道がなければ使えないというのが現実で、日本でタワーヤーダが普及しなかったのは林道がなかったからというのも大きな要因です。

これまで林道はたくさん作ってきたはずですが、それらはいったいどこに行ってしまったのか?と疑問に思ってしまうほど現実に山には使える林道がありません。一方で、山間部には当初は林道として開設されたけれども、今ではアスファルトで舗装され、ガードレールが取り付けられて、一般車両がふつうに走っている「公道」が存在しています。それには、林道予算を活用して山間部の自治体が生活に必要な道路整備を行ってきた背景があるわけですが、公道に「格上げ」された林道は森林作業を行うには使いにくい(使えない)道になってしまいました。

なぜなら、谷側にはガードレール、山側にもコンクリートの擁壁があるため道から林内への進入や索張りが制限されます。舗装された公道をクローラ車は走れないし、一般車両の交通を遮断するような集材作業もできなくなります。そもそも、公道と林道とは求められる要件が異なりますが、両方を同時に追い求めてきたことが失敗だったと言えるでしょう。

その要件がどういうものかと言えば、林道は必ずしも2点間を最短距離で直線的に結ぶ必要はないので大規模なトンネルや橋梁は必要としないし、林地との接続を分断するガードレールや擁壁は邪魔なだけだし、カーブミラーや標識もなくてもよいし、舗装の必要性もきわめて局所的かつ限定的です。公道は集落間をできるだけ直線で(最短距離で)連結する必要があり、ドライバーの運転技量も様々で必然的に交通量も多くなるので、安全性に対する要求水準が非常に高くなります。ほとんどの一般車両はオフロード走行を前提としていないし、移動の快適性や走行性を考えれば、路面に舗装が必要なのは言うまでもありません。

日本の林道整備を担っていた(森林開発公団→緑資源公団→)緑資源機構が公共事業に対する強い逆風が吹く中談合事件で解体され、日本の林道整備はどうなるのかと懸念されていたところで「森林・林業再生プラン」が発表されて、「林業専用道」という新たな林道区分が打ち出されました。林業専用道の位置付けは、近畿中国森林管理局によると以下のようなもので、林道と森林作業道の間を補完するものになっています。

林道・・・・・・・・・・・・原則として不特定多数の人が利用する恒久的公共施設であり、森林整備や木材生産を進める上での幹線となるもの。

林業専用道・・・・主として特定の者が森林施業のために利用する恒久的公共施設であり、幹線となる林道を補完し、森林作業道と組み合わせて、森林施業の用に供する道をいい、普通自動車(10トン積程度のトラック)や林業用車両(大型ホイールタイプフォワーダ等)の輸送能力に応じた必要最小限の規格・構造を持つことにより、森林作業道の機能を木材輸送の観点から強化・補完するものである。

森林作業道・・・・特定の者が森林施業のために利用するものであり、主として林業機械(2トン積程度の小型トラックを含む。)の走行を予定するものである。また、集材等のために、より高密度な配置が必要となる道であり、作設に当たっては、経済性を確保しつつ丈夫で簡易な構造とすることが特に求められる。

林内路網・・・・・・・林道、林業専用道、森林作業道等、場合によっては公道等を含む道の総称である。


図-1 林業専用道と森林作業道のイメージ図(出典:http://www.rinya.maff.go.jp/kinki/seibi/romou_seibi/1_.html)
 
日本林業の生産現場の課題に、フォワーダから山土場で3トントラックへ積み替え、さらに中間土場で10トントラックに積み替えることで2度の積み替えが発生しているということがあります。作業道とクローラ型フォワーダを組み合わせた日本のガラパゴスシステムは生産性の観点では決してお勧めできないのですが、ヨーロッパ並の林内路網がすぐに整備できるわけではないし、生産現場にようやく根付き始めてきた方法を急激に変えることも無理な状況で、どうやって現状を改善していくか現実的な答えを出さなければなりません。その答えとなる林業専用道がどういう意味を持つのかおさらいしておきましょう。

図-2は高性能林業機械を導入した現場で見られる日本林業の典型的な材の輸送システムですが、クローラ型フォワーダで搬出した材を幅の狭い公道との接続部にある山土場で3トントラックに積み替え中間土場まで運搬し、そこで10トントラックに積み替えるというものです。この場合、2度の積み替えが発生します。

図-2 日本の典型的な材の輸送システム

そこで、作業道を中間土場のある幅の広い公道に接続したのが図-3です。これによって材はクローラ型フォワーダから10トントラックへ直接の積み替えが可能になります。しかし、走行速度の遅いクローラ型フォワーダによる運搬距離が伸びることで生産性が大きく低下します。作業道の開設費や開設時間も余分に必要になります。

図-3 フォワーダによる材の運搬距離が長い林内路網

図-4は広い公道から山土場まで林業専用道で山の中腹をぶち抜いたものです。これならば、クローラ型フォワーダから10トントラックへ直接の積み替えが可能になるばかりでなく、クローラ型フォワーダによる運搬距離が伸びることもありません。山の中腹から上下方向に作業道でアクセスできるので、クローラ型フォワーダによる運搬距離はさらに短縮されます。このような道ができることで、ヨーロッパの高性能なタワーヤーダの利用も可能になり、林業専用道の上下方向に索張りをすることで広範囲の集材をすることも、10トントラックを直付けして積み替えずに輸送することも可能になります。

図-4 林業専用道を導入した林内路網

国土が広大なアメリカでは材を数百キロ離れた場所まで運搬することもふつうであり、輸送効率が生産コストに直結しています。それゆえに、現地の学会に参加すると大型トレーラーがトピックになることしばしばですが、森林利用学会の研究発表会ではあまり議論されていないのではないかと思います。(時々北海道の話が出てくるのは、やはり北海道が広くて輸送の効率性が課題になっているから?)

写真1~7はカリフォルニア州北部のスイングヤーダによる集材現場からトレーラーが材を運び出す一連の作業の様子です。アメリカに行くといつも日本の林業との規模の違いに圧倒されますが、林業ビジネスとしての本質に差異はなく、大きな運搬車で効率よく材を運んだ方が有利になるのはアメリカも日本も同じです。日本の林業関係者はもっと材の輸送のこと(そして流通のこと)を考えるべきです。

写真-1 スイングヤーダによる集材作業

写真-2 方向転換中のトレーラー

 写真-3 グラップルで後輪を持ち上げ

写真-4 後輪を連結して完成

写真-5 グラップルによる材の積み込み

写真-6 前方から見た積み込み中のトレーラー

写真-7 材を満載して出発するトレーラー

ここで、物流の合理化で先行するイオンの事例を見てみましょう。松江にあるイオンのスーパーマーケットに富山県産の魚(や刺身)が売られていたりすると、なぜ富山県の港に水揚げされた魚をわざわざトラックで(魚の豊富な)山陰まで運んで来るのだろうか、どうしてそれで利益が出るのだろうかと考えさせられます。それはもちろん魚の重量当たりの付加価値が大きく、トラックによる輸送コストが相対的に小さいことが大きいでしょう。一方、木材は体積や重量当たりの利益が魚に比べればわずかしかないので、トラック輸送にコストがかかればすぐに赤字になってしまいます。生鮮食品は鮮度の維持の観点から地産地消が有利になりますが、木材もまた輸送コストの観点から地産地消に優位性があると言えるでしょう。輸送の観点では、国産材は外材に比べて圧倒的に有利な条件にあるのだから、外材との競争では地の利を最大限に生かしたビジネス展開が必要であり、そのための林業専用道とも言えそうです。

写真-8 イオンの刺身(出典:https://www.aeonnetshop.com/shop/goods/goods.aspx?goods=120000000615002751271000000)
 
これまで曖昧になっていた林道と公道の役割分担を明確にした林業専用道への期待は大きいのですが、現実にはその開設の動きはとても鈍いように見えます。その理由をいくつかの林業現場で尋ねたところ、人も資金も技術も余裕もない森林組合にはこういう比較的大規模な道を作るのは荷が重いという話が聞こえてきました。林業専用道の事業主体は都道府県、市町村、森林組合等とされていますが、林業専用道は行政が責任を持って地域のニーズに基づき長期的な視点で計画的に開設し、森林組合は森林作業道の開設のみを担うという役割分担が必要ではないかと思っています。

森林利用学会にはかつてモノレールを含めた複合規格路網という話題もありましたが、そもそも林道には多くの規格が必要なのでしょうか?川上は流量が少ないので道も小さく、川下は流量が大きくなるので道も大きくという考え方で、複数の規格の林道を合理的に組み合わせるという考え方が今でもスタンダードだと思われますが、材を輸送する車両の「流量」は一般の交通量に比べてとても少ないので、川下と言えども大規模林道、スーパー林道、緑資源幹線林道、森林基幹道のような道は必要ではありません。むしろ、林道の規格が小さいものから大きいものへと変化する中で、材をより大型の車両に積み替えるコストが問題になっていることを考えると、林道の規格は思い切って整理してしまってもよいはずです。

現状の林道区分の中では、(原則として不特定多数の人が利用する恒久的公共施設であり、森林整備や木材生産を進める上での幹線となる)「林道」という区分はもはや必要ないと考えています。つまり、林道として必要なのは林業専用道と森林作業道の2つの規格であり、山間部の集落間を連結する道や観光に資する道は林道としては廃止して、林道と公道の役割分担を明確にすべきということです。それによって、林業専用道への集中投資を実現して、その開設を加速していく必要があると考えます。

2017年5月16日火曜日

高性能林業機械と作業道の「4点セット」をどげんかせんといかん

山地に作業道を開設して、スイングヤーダ、プロセッサ(ハーベスタ含む)、フォワーダという高性能林業機械の3点セットを使って集材する方法が我が国の林業界のスタンダードになっていますが、これは日本でしか見られないガラパゴスシステムです。林野庁が近年推進してきた森林作業に関する二大政策は「高性能林業機械の導入」と「作業道の開設」であったと思っていますが、実はこれらのミスマッチこそが日本林業の生産性が向上しない主たる原因と考えています。

スイングヤーダは森林組合に多く導入されていますが、搬器を使った索張りを避けて単線直引きによる集材作業が広く行われています。このような原始的な方法では集材効率は上がるわけがないのですが、比較的小面積の事業地では道からの距離が20~30m程度といった現場も多く、搬器を使った索張りをしなくても単線直引きで引っ張り出した方が早いと考えるのは間違っているようには思えませんが、実際のところどうなのでしょうか?

作業道上のスイングヤーダで単線直引きによる上げ荷集材を行う場合、材を道下まで寄せることはできるものの道上まで引き上げることはできません。そのため、この材をプロセッサに受け渡す次のプロセスは困難を極めることになります。長伐期化により大径材や長材が一般的になっていますが、このような材を直角に回して作業道上へ引き上げようとすれば残存木への衝突や損傷が避けられません。材を回せない場合はチェーンソーで玉切りするという余計かつ危険な作業が発生します。作業道が狭いと.25クラスのグラップルやプロセッサしか入れないため、そうなると機械の力不足によりこのようなチェーンソー作業は必然となってきます。その後なんとかプロセッサが材を掴むことができたとしても作業道は狭いので、ブームを振り回して枝払い・玉切りと言った造材作業を行うことは非常に困難です。この問題は単線直引きに限らず、作業道上でスイングヤーダ(あるいはウインチ)を使った列状間伐のような多点型集材を行えばほとんどの場合に発生します。

図-1 作業道上でウインチを用いた単線直引きによる上げ荷集材作業

一方、ヨーロッパのタワーヤーダは最大横取距離までの集材を終えた後、林道上を移動して隣の伐区で再び同様の集材作業を行います。タワーヤーダがこのような短時間の張り替えによる多点型集材を得意としていることは今さら言うまでもないことです。ヨーロッパのタワーヤーダは幅員4mはある幅の広い林道上で作業を行うため、ブームを振り回すプロセッサによる造材作業にも支障はありません。ヨーロッパで広く普及しているKONRAD社のWOODYシリーズ(ハーベスタ)であれば、ローラーによる送材力が大きいため、道端の材をいとも簡単に引き上げることができます。

図-2 ヨーロッパで普及しているWOODYハーベスタ
(出典:http://www.forsttechnik.at/en/products/woody-harvester.html)

さらには、コンビネーション型タワーヤーダを使えば集材作業の最難関とも言えるタワーヤーダからプロセッサへの材の受け渡しは最大レベルでスムーズに行われます。ヨーロッパにおいて集材作業の一連のプロセスが合理的に最適化されていることにあらためて深い感動を覚えます。

 図-3 コンビネーション型タワーヤーダSyncrofalke
(出典:http://www.mm-forsttechnik.at/de/syncrofalke/performance.php)

日本のスイングヤーダはヨーロッパのタワーヤーダを模した多用途型の林業機械ですが、作業道が狭いのでヨーロッパのタワーヤーダのように林道上を移動しながら次々に張り替える多点型作業には不向きであることはすでに述べた通りです。日本のスイングヤーダは他の多くの林業機械と同様にヨーロッパの林業機械の「亜種」なのですが、この点においてもヨーロッパのタワーヤーダ技術の本質を理解せずに外形だけをコピーして失敗していると言えるでしょう。

さて、日本のスイングヤーダの生産性が思うように上がらない一方で、昔ながらの集材機による集材作業の生産性が高くコストも低いのはなぜなのか考えさせられますが、これは集材機の性能が高くて優れているというわけではありません。近年集材機を見直そうという機運が林業界にありますが、集材機は時代遅れの過去の遺物でしかないので、その必要は全くありません。集材機が優れているのは、低い機械コストと索張りです。索張りと言ってもエンドレスタイラーが優れているとわけではもちろんありません。それでは何が優れているのかと言えば、まとまった量の材が一点に集中して出てくるということです。これは、先に述べたようなスイングヤーダによる多点型集材で作業道に沿って道端に少量の材がばらばらに出てくるのとは対照的と言えるでしょう。

材が一点に集中して出てくることでどのようなメリットが生まれるのかと言えば、そこに広い土場を作っておくことでプロセッサによる造材、材の集積・仕分け、そしてトラックへの積み込みという一連のプロセスがスムーズに進行することです。残材などバイオマスの収穫にも有利です。これこそが高性能林業機械の3点セットに作業道を加えた4点セットが苦手とするところであり、集材機作業に優位性があると言えます。この土場を大型トラックが走行できる公道のそばに作れば、材の輸送コストも大幅に圧縮できます。

このような一点集中型の方式はスイングヤーダの集材作業でも大いに採用を検討すべきで、フォーリングブロックなどの索張りを使ってみてはどうかと考えています。タワーヤーダであれば、この方式によっていっそう効率のよい集材作業が可能になるでしょう。この場合、公道そばにある土場までの下げ荷集材が後の運材プロセスへの連続性の観点から有利です。2013年に島根県浜田市で開催された森林利用学会の現地見学会で行われていたのは、まさにそういう作業でした。

図-4 IHIのタワーヤーダによる下げ荷集材

図-5 運材プロセスにスムーズに接続する下げ荷集材が有利

一方、4点セットではフォワーダが間に入るので、集材機に比べると材の輸送コストが非常に高くなるという問題が生じます。フォワーダは走行速度が遅く、積載量も少なく、メンテナンスコストが高く、実は事故も多発しているといった問題が知られていますが、ここでは4点セットの課題となっている作業の連続性について考えてみます。

図-6 フォワーダによる積み込み作業

多くの作業道には運材トラックが入れないため、クローラ式のフォワーダが使われますが、この場合トラックへの材の積み替え作業が発生します。輸送プロセスに積み替えという断絶が生じるという意味において、フォワーダというのは現代の森林鉄道とも言えます。森林鉄道は輸送プロセスに断絶のないトラックに合理的に置き換わってきたのに、今また作業道という「線路」を敷いてフォワーダという道路を走れない「貨車」を導入することで時代が逆戻りしているようにも思われるのです。

クローラ式のフォワーダは舗装された公道を走れないので、作業道入口の土場が3トントラックしか入れない公道に接続していた場合、そこで材を3トントラックに積み替えて広い公道に面した土場まで運搬し、そこで再び15トントラックに積み替えて出荷するという運搬システムも実際に行われています。こういう方法は、運材トラックが集材現場まで直接進入して材を運び出すヨーロッパに比べて明らかに効率が悪く、高コストであると言えます。日本林業は生産性が低い割に現場に機械が多過ぎる(機械が多過ぎるから生産性が低い)という指摘があり、フォワーダをなくした方がそれ自体のコストを含めて有利になります。

最後は日本の作業道についてです。森林組合が開設する作業道に対して行政が2,000円/m程度の補助金を出すので、現場は足が出ないように2,000円/m以下のコストで作業道を作ろうとします。そうして作られた作業道はフォワーダ限定の道で幅はぎりぎりで排水処理なども十分ではなく、一時的な使用を想定した道なので森林生産のための生産基盤(林道網)とはなりえません。わずかな材を搬出するために山を切り刻んで新たな崩壊要因(災害要因)を作ることは決して合理的とは言えないでしょう。

図-7 スリップ防止のために枝条を敷いた作業道

補助金というのは本来国際競争力の低い日本林業を産業として強化するための後押しに使われるべきものなのに、現実には作業道を名目にしたばらまきとなって森林組合の経営努力や自助努力、そして自立そのものを阻害しています。使い捨ての道のために補助金を出すのではなく、生産基盤となる恒久的な道に出して欲しいと願わずにはいられないです。

高性能林業機械と作業道の4点セットに熱狂しながら、これまで日本の林業機械化は進んできましたが、生産性が思うように上がらなかった現実を受け入れ、これまで何が間違っていたのかを考え総括する必要があります。その答えは日本とヨーロッパの林業機械化を多面的に比較することで見えてくるでしょう。そしてもう一点、作業道に対する勘違いが日本の林業現場に蔓延しているようなので、それが本来どういうものだったのか、「写真図解 作業道づくり」(大橋慶三郎・岡橋清元著、全国林業改良普及協会発行)あたりを読んで再確認してもらいたいと思っています。

2017年1月20日金曜日

和製英語から考える集材技術

 日本には、英語を母国語とする国では通じない和製英語が氾濫していますが、それらはすでに日本語の一部として完全に定着しています。この前新宿の街を歩いていたら「まもなくタイムセールが始まります!!」と売り子の声が響いていましたが、そんな言葉に釣られてお店に入ってみると、「PRICE DOWN」という赤札が貼られていました。もちろん、「タイムセール」も「PRICE DOWN」も和製英語です。和製英語は英語学習の障害にはなりますが、絶対的な悪というわけではなく、そういう言葉の中にもよく考えたなあと感心するような言葉もあって、言語学の観点から研究してみたくなる私にとっては興味深い存在です。「コインロッカー」や「コインラインドリー」という言葉は典型的な和製英語として知られていますが、実はアメリカやオーストラリアの街角で見かけることもあり、そういう言い方もありなのだろうと思っています。言葉というものは、人によって、国や地域によって、時代によって正しかったり正しくなかったりする曖昧なものであるという認識が必要だと思っています。言葉に絶対はないという前提で、この後の話を読んでいただければ幸いです。

 集材技術の勉強をしていると英語を語源とする様々なカタカナ言葉を目にすることになりますが、これはどうなのかと思う言葉がいくつか存在しています。架線集材のメインライン(日本語では「引寄索」)はしばしばホールラインと呼ばれていて、「HAL」という略語が与えられていますが、私はこの言葉を海外で見たことも聞いたこともありません。日本ではあまりに一般的な言葉なので、いくらなんでも和製英語ではないだろうと信じていたのですが、半世紀近い人生の中で見かけることはなかったので、私の心の中で和製英語と認定するに至ったものです。ホールバックライン(日本語の「引戻索」)という言葉は英語でもふつうに使われるのに、どうしてホールラインはないのだろうか?と考えてみました。私なりの答えは次のようなものです。英語のhaulという言葉の日本語訳はしばしば「引く」となっていますが、その言葉の意味は日本語の「引く」とはニュアンスが異なっています。日本語では引くは自分自身の方向、つまり手前にモノを動かすことであり、その反対は「押す」で自分自身から離れる方向にモノを動かします。ところが、英語のhaulはモノを動かす向きについては何ら示しておらず、どちらにhaulしてもよいのです。日本語に訳すならば「引く」というよりも方向性を持たない「引っ張る」「牽引する」が適切でしょう。Longmanにはhaulの意味として以下のように書かれており、引っ張る対象が重いものであるという定義もありました。

to pull something heavy with a continuous steady movement

haulという言葉だけでは方向を示していないため、手前に引っ張るならば「haul in」、その反対は「haul out」と言います。戻す方向に引っ張るならば「haul back」です。ホールバックラインという言葉があるのだから、その反対はホールラインだろうと昔の人が安易に考えてしまったのではないかというのが、ホールラインという言葉が存在する理由として私が考えている仮説です。もちろん、先に書いた通り言葉に絶対はないので、昔ヨーロッパかアメリカの誰かがホールラインという言葉を使っていて、それを日本語に導入した研究者がいた可能性も十分考えられます。

 ホールラインと並んで私が疑問に思っている言葉が、今日たくさんの日本語の文献に見られる「スナビング式」という索張り用語です。「snubbing system」という言葉が英語に存在しないと主張しているわけではありませんが、現代において「死語」に近いものであり、その意味するところにおいても日本では誤解があるのではないかと考えています。「スナビング式」は山から谷筋の道路に材を下ろす索張りとしてしばしば使われる索張りで、単胴集材機を人力であるいはそりを使って山の上まで引き上げ、それによって下げ荷集材を行います。スカイラインとメインラインで構成される単純な索張りで、吊り上げた材を重力によって高速で麓まで運び下ろすことができます。ただ、単胴集材機を山の上まで運び上げる作業があまりにたいへんで、架設には多大な時間を要し、オペレータは毎日山登りをしなければならず、作業中は山奥で一人になって孤独を感じるといったものでもあるため、次第に使われなくなってきたものです。ヨーロッパで発展した集材方法ですが、タワーヤーダの導入が進んで、この方式の活躍の舞台は人件費が相対的に安く機械にコストをかけられない東欧や発展途上国へと次第に移っていきました。私がこの方法を初めて見たのは1998年のトルコ北東部黒海沿岸地方においてです(写真-1~3)。ガントナーの単胴集材機を山の上に設置して、吊り上げた材を麓の道路端まで運び出していました。このシステムは索張りが単純である代わりに搬器を係留する必要があり、初期のものはストッパー(「林業機械学(文永堂出版)」の21ページに図があります)を使っていたのですが、トルコでは係留装置を組み込んだコラーの搬器が導入されていて効率的な作業が実現されていました。

写真-1 ガントナー単胴集材機

写真-2 コラー搬器

写真-3 空中に材を吊り下げた長距離集材

 Dictionary.comにはsnubの意味について以下のように書かれており、「繰り出しているロープを突然止める」という意味になっています。なぜこの索張りがsnubbingなのかと言えば、重力によって高速に滑り落ちていく搬器をメインラインによって急制動(急停止)させるからです。

to check or stop suddenly (a rope or cable that is running out)

FAO FORESTRY PAPER 24の20ページにはsnubbing system(図-1)について以下のような説明があります。この説明の中のswingingというのは「2段集材の2段目のことである」と「林業機械学(文永堂出版)」の195ページに書かれています。

This is a typical gravity system. While it can be used in clearcut, partial cut and thinnings, it is usually used for downhill swinging over long distances. The yarder is placed at the upper end and a special gravity carriage is used. The single-operating drum yarder pulls the empty carriage up along the skyline to the logs, and when the carriage is stopped it is locked to the skyline and the snubline is lowered down to the logs. When the logs are lifted, the carriage lock disengages and then the carriage is lowered along to the landing site by gravity, with the carriage and logs kept under control by snubbing.

Intermediate supports are frequently used for this system. Numerous gravity carriages have been developed and are sold under various names - some are relatively simple while others are quite complicated. A radio-controlled carriage is also used in some regions.

The major disadvantages are: relatively low daily production, long set-up and take-down times, especially the movement of the yarder to its operating position and thus the problems with maintenance. In general, it has a limited lateral yarding distance which must be done manually or by use of other equipment. However, it has the advantage that only a one-drum yarder is needed and that it can be used for long swings when the road density is low.


図-1 snubbing systemの索張り(出典:http://www.fao.org/docrep/016/ap356e/ap356e00.pdf)


ここに書かれているように、スナビング式は基本的に下げ荷集材で用いる索張りですが、「林業機械シリーズNo.80 急傾斜地作業に活躍するタワーヤーダとその作業(社団法人 林業機械化協会)」の52ページには「上げ荷専用である」と書かれているのが非常に気になっています。それどころか、スカイラインとメインラインで構成されるタワーヤーダやスイングヤーダの上げ荷集材の索張りのことを(おそらく索張りの形が同じという理由で)多くの人たちがスナビング式と呼んでいることに違和感を持っているのですが、本当にこれでよいのでしょうか?

 トルコで見たような集材システムがヨーロッパ林業の主流から消滅している現在、スナビング式という用語も死語になっていると思います。日本だけがそんなものを使い続けていては海外との技術的なコミュニケーションの障害になるのではないかと危惧しており、その点においてホールラインと同じ問題を抱えているのではないかと思いました。しかし、スカイラインとメインラインで構成される(ヨーロッパでは当たり前の)索張りを実際になんと呼ぶのかというと適切な答えが見つからないというのがまたおもしろいところであり、Mayr MelnhofのSherpa搬器の説明では 2-Cable System(ドイツ語は2-Seil System)と書かれています。北米にはショットガンという呼称がありますが、ヨーロッパではあまり使われていないようです。

 次はいわゆるスラックライン式という索張りについてです。この索張りは2線型ランニングスカイラインと並んで我が国のスイングヤーダで広く用いられているものです。スカイラインを緊張したり緩めたりすることで搬器を上げ下げすることができ、これによって搬器の係留や横取りといった困難を伴う技術的課題を大きなコストや手間をかけずに克服しています。ただ、北米(主に西海岸)ではスラックライン式という固有の索張りが存在している(図-2)ので、我が国のスラックライン式に対してはより一般的な「ライブスカイライン式」(ライブスカイラインの言葉の意味としてはスラックラインとほぼ同義と思われます)という呼称が適当だろうと私は考えています。北米のスラックライン式は緊張や弛緩が可能な動的なスカイライン(ライブスカイライン)とメインラインによって構成されるショットガン式にホールバックラインを付加したものです。ショットガン式が上げ荷集材専用であるのに対して、この方法ならばホールバックラインを使った下げ荷集材も可能になります。「The Dictionary of Forestry(The Society of American Foresters)」には以下のように説明されています。

a live skyline system employing a carriage, skyline, main line, and haul-back line - in a slackline system, both main and haul-back lines attach directly to the carriage; the skyline is lowered by slackening the skyline to permit the chokers to be attached to the carriage; the turn is brought to the landing by the mainline; lateral movement is provided by sideblocking

スラックライン式ではホールバックラインが搬器を横方向に引き出して、そこにチョーカーを直付けすることで横取りを行いますが、その際にはスカイラインを大きく緩める必要があり、それもまたスラックライン式と呼ばれている理由なのかもしれません。

図-2 北米におけるスラックライン式の索張り(出典:http://forestry.mosaictraining.ca/Images/Diagrams/Slackline%20System.jpg)

さて、スラックライン式を上記のように定義した北米においてすら、その意味が揺らいでいるのは日本の状況と同じです。「YARDING AND LOADING HANDBOOK(OREGON OSHA)」の61ページには、スタンディングスカイラインを使ったスラックライン方式が図示されていて、一瞬パニックに陥りそうになります。ここではホールバックラインを使う索張りのことをスラックラインと呼んでいるようで、本来の意味とは異なっているので、おそらくは林業現場が便宜的にそのように呼び始めたのではなかろうかと思っています。

 このように専門用語の意味の厳密性よりも利便性を重視する林業現場が、本来の定義とは異なる使い方をする事例は日本にも見られます。日本のスラックライン式におけるスカイラインが現場に近づけば近づくほどホールバックラインと呼ばれているという事実があり、例えば、徳島県の「新間伐システム作業マニュアル」の7ページにもスカイラインに対してホールバックラインと説明が書かれた図が掲載されています。搬器を上げ下げするためにスカイラインは上下に動きますが、ホールバックラインとは役割が全く異なっており、ホールバックラインと呼ばれている理由が知りたいと思っていました。最近わかった答えは、このスカイラインがスイングヤーダのホールバックライン用のドラムに巻かれているからということで、「その発想はなかった」と衝撃を受けるとともに、林業現場との意思疎通が難しいと感じてきた理由がわかったような気がしました。

 最後に、その他の気になるカタカナ用語について紹介しておきます。架線集材ではバックテンションという用語がしばしば使われますが、backward tensionが正しいのではないかと思っています。リフティングライン(略称LFL)もたいへんよく使われますが、横取りに従事する索にはスキディングラインという一般的な用語があり、リフティングラインは荷を持ち上げる作業に特化した索に対してのみ使うべきではないかと思っています。タイラー系でしばしばリフティングラインが使われるのは、その役割として材を上向きに持ち上げる作業が主であり、横取りは(ホールバックラインが担うので)完全な従であるからではないかと考えています。ちなみに、longmanでliftを調べると下のようになっています。

to move something or someone upwards into the air

リフティングラインという言葉も今ではほぼ日本のエンドレスタイラー式で見られるだけになっており、国際的には死語に近づいているのではないかと思われます。林業工学分野に限らず、森林・林業の業界では国内的にも国際的にも専門用語(terminology)の意味が統一されていないため文字によるコミュニケーションが非常に難しいという問題を抱えており、学問としての体系化もさることながら用語の統一が重要課題となっています。専門用語の定義が揺らいでいることが、林業工学を学ぼうとする若い世代の参入を阻む障壁にもなっており、我が国の林業工学研究が衰退を続けている原因とも言えるでしょう。かつてユンボだのバックホウだのパワーショベルだのと好き勝手に呼ばれていた機械の呼称を建機業界として油圧ショベルに統一したのは歴史的英断だったのではないかと思っており、こういう動きが林業機械にも起こって欲しいと願っています。

2015年9月13日日曜日

土佐の森方式軽架線キットをスイングヤーダで使ってみたらどうなるか?

自伐型林業が日本林業の新たな潮流となりつつあります。近年の日本林業は、欧州林業に負けない生産性を実現しようと、森林組合による林地の集約化、高性能林業機械の導入、そして作業道の整備が行政の補助金を集中投下することで推進されてきました。しかし、それに反旗を翻したのが自伐型林業と言えるかもしれません。

「New自伐型林業のすすめ」(全国林業改良普及協会発行、中嶋健造編著)によれば、New自伐型林業は以下のように定義されています。

New自伐型林業とは、山林所有の有無、あるいは所有規模にこだわらずに、森林の経営や管理、施業を自ら(山林所有者や地域)が行う、自立・自営型の林業であり、限られた森林が所在する地域で暮らし、その森林を永続管理し、持続的に収入を得ていく林業です。

New自伐型林業のすすめ
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中嶋健造 編
全国林業改良普及協会
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自伐型林業によって活力を失った農山村が蘇生する効果はとても大きなものがありますが、 私は自伐型林業が日本林業の主流になるとは少しも思っていません。むしろ、集約化、基盤整備、機械化こそがメインストリームだと思っており、これらを合理的な判断によって正しい方向に進めて行くべきです。(現状ではそうなってはいませんね。)

「森林・林業・環境機械展示実演会」(一般社団法人林業機械化協会主催)にここ数年毎年参加していますが、会場には多くの林業機械が並び多数の来場者で賑わっているように見えます。しかし、実はそこにある林業機械の多くが海外製であることにお気づきでしょうか?日本の国産林業機械はほぼ終わっています。日本は世界有数の山岳国なのに、主力となるべき国産タワーヤーダはほとんど見られず、その代わりにスイングヤーダが多数展示されています。

日本林業の弱点はたくさんありますが、その一つはスイングヤーダの生産性が低いことにあると思っています。スイングヤーダの現場での使われ方を見ていると、搬器を使わずに直引きが行われているケースがかなり多いのではないでしょうか?これでは生産性が上がるわけがなく、スイングヤーダは搬器とセットで使うことが生産性向上の最初の一歩になります。

日本のスイングヤーダはそれなりに種類があって、どれにしようかと選ぶのに困るほどですが、搬器はほとんど皆無というのが日本林業の不思議です。日本の架線集材は伝統的に複雑な索張りに頼っているので、搬器の高度化についてほとんど実績がありません。このままでは日本の林業が欧州の生産性に追いつくことなどできるわけがないのに、未だ搬器の重要性が認識されていないかのようです。

昨年「2014森林・林業・環境機械展示実演会」へ行って、コマツの展示場でスイングヤーダの説明をきいたのですが、ここでもやはり搬器に関しては全く興味がないようでした。コマツとしての仕事はスイングヤーダ本体を作ることまでで、搬器は林業側の工夫に任せているとのことでしたが、必要なことは建機メーカーと林業サイドの役割分担ではなく、いっしょによいものを作っていくというコラボレーションだと思っています。

写真-1 世界のコマツのスイングヤーダ

写真-2 これでは何もできない残念な搬器

さて、直引きから搬器を使ったシステムへと進んだときに最初に考えられるのはいわゆる日本の「スラックライン式」というシンプルな上げ荷専用の索張り方式でしょう。この方式は必要に応じて上げ下げできるスカイライン(ライブスカイライン)と、スキディングラインを兼用したメインラインから構成されるシンプルなものです。本来搬器にはクランプ機構が必要なのですが、そういう搬器が日本ではなかなか見つからないのです。

図-1 スラックライン式

写真-3 スラックライン式による上げ荷集材

クランプ機構がないと、材を引き上げるのは非常に難しくなります。スカイラインに沿って引き上げる力がかかることで搬器が逃げるので、材の端上げができなくなり、その結果集材中に材が伐根にぶつかったり地面にめり込んだりして、効率よく材を引き上げることができません。

写真-4 鼻上げができず地面を引きずられる材

 図-2 スラックライン式で搬器が上に逃げる状態

端上げをするためには、搬器にひもをつけて立木に結びつけたりキトークリップを使って搬器をスカイラインに固定するなどの工夫が必要になります。


図-3 横取り中搬器を固定することで鼻上げを実現

 写真-5 鼻上げによるスムーズに引き上げられる材

日本にはクランプ機構を持った搬器がほぼ存在しないので、スイングヤーダを導入しても搬器に関してはどうすることもできないわけですが、自伐型林業で使われている「土佐の森方式軽架線キット」(←必見です)の搬器を使ってみてはどうかと思いました。このキットは高知県の綱屋産業株式会社から20万円で販売されています。

この搬器は厚さ1cmくらいの鉄板に穴を開けて、滑車を取り付けただけのものですが、動滑車を使って力を3倍にしているので、小さな力で大きな材を引き上げることが可能になります。そして、この索張りのハイライトは「スラックライン式」でも搬器が逃げないため端上げ集材が可能になることです。そのため簡易な索張りながらスムーズな材の引き上げが可能になります。

 図-4 土佐の森方式軽架線キットによる3倍型の索張り

このような索張り方式は特に新しいものではなく、四国には昔から存在していたという話を高知大学の先生から聞きました。メインラインの一端を搬器に固定して動滑車により引き上げる力を2倍にする方法は徳島県の「新間伐システム作業マニュアル」の6ページにも書かれています。「林業機械学」(文永堂出版、大河原昭二編)に載っているフォーリングブロック式もメインラインの一端を搬器に固定するタイプです。


図-5 動滑車による2倍型の索張り

このような動滑車を使った2倍型、3倍型の索張りをすることで、搬器が逃げなくなり少ない力で重い材が引き上げられ鼻上げでスムーズな集材が実現します。林業技術の進歩には温故知新が必要だとあらためて思いました。過去の埋もれた技術の中に未来の革新的技術のシーズとなりうる要素があるからです。ちなみに、私が今注目しているのは循環型の索道です。

写真-6 現在の島根県益田市にかつて存在した索道

写真-7 現在の島根県益田市にかつて存在した索道

さて、土佐の森方式軽架線キットをスイングヤーダで使ってみる試みが、2015年9月3日に島根県隠岐の島町で開催された「木材生産技術研修会」(隠岐支庁・隠岐流域林業活性化センター主催)で実現しました。このイベントではこのキットを実際に使っている仁多郡林業研究グループの方に道具を持ってきていただき使い方を指導してもらいました。やはり、この搬器をスイングヤーダで使った経験はないとのことでした。

残念ながら、今回の現場では土佐の森方式軽架線キットの3倍型の索張りにはなっておらず、2倍型の索張りになっていました。ただ、このシステムが通常使われている林内作業車やロープウインチと比べてスイングヤーダは強力なので、この方法でも材を引き上げるのに全く問題はなかったです。

写真-6 土佐の森軽架線キットの搬器と索張り

現場で使用されていたスイングヤーダは日立のZAXIS 70+イワフジのTW-232Aです。いわゆるコンマ25クラスの今の時代ちょっと非力かなと思われるものですが、材は引き上げられるのでしょうか?

 写真-7 使用されたスイングヤーダ

最初にトライした短材は直径が大きいものでもわけなく引き上げられました。さすがはスイングヤーダです。

写真-8 林道上に引き上げられた短材

それでは全木材はどうでしょうか?この大きな木まるまる1本がスムーズに林道まで上がってきました。この現場は小面積の皆抜で、傾斜は25~30度の間くらい、集材距離は30~40mくらいでした。横取り距離は最大10m弱だったと思います。

 写真-9 全木材を横取りして引き上げている様子

 写真-10 林道上での荷外し

林道まで引き寄せられた材はスイングヤーダのグラップルで掴んで林道上に完全に引き上げられました。こういう使い方ができることがスイングヤーダの利点ではありますが、実はその間に搬器が止まってしまうので、作業全体の効率は下がってしまうということは意識しておきたいです。オーストリアの集材作業では材をコンビネーション型タワーヤーダのプロセッサで掴んだら搬器はすぐに先山に戻っていくので時間のロスがありません。

 写真-11 スイングヤーダが材を林道上に引き上げている様子

 写真-12 林道上に引き上げられた材

写真-13 チェーンソーで玉切りしている様子

スイングヤーダに土佐の森方式軽架線キットを使う試みはうまくいったと思います。こんな薄い鉄板では無理ではないかという声もありましたが、そんなこともありませんでした。日本の林業機械開発に欠けているのは土佐の森方式軽架線キットに見られる合理性だと思います。材の大径化に対応できなくなっていると言われるスイングヤーダですが、これがあればまだまだ使えると思いました。

林業における集材技術というのは理論や計算では予測ができず、「やってみないとわからない」ことが多々あると思っています。今回は林道のそばでの集材でしたが、この方法はどのくらいの集材距離・横取り距離まで対応できるのかという疑問があります。これもまたぜひやってみたいです。

2015年5月13日水曜日

どうすれば熱帯林の消失を食い止められるのか?

JBPRESSに「日本人こそ知っておくべき熱帯林消失の現状 東南アジアの森林を守るために何が必要なのか」という記事がありました。東南アジアの熱帯林の現状を知るにはたいへんわかりやすい記事で、日本人の豊かな生活のために東南アジアの熱帯林が今も破壊されている事実はこれを読んで知っておくべきだと思います。

ただ、この記事に私にはこれは違うと思われる点があります。しかも、それが「どうすれば熱帯林の消失を食い止められるのか」という肝心なところなのです。この記事の著者が専門外のことを書いているのだから仕方がないのでしょうが、低インパクトを導入すれば熱帯林の消失を食い止められるというのは間違いだと思います。

どうすれば熱帯林の消失を食い止められるのか

アブラヤシ農園や植林地では、バイオマス(炭素のストック)が減少するだけでなく、アジアゾウなど多くの野生動物が暮らせない。植物種の多様性もほぼ消失する。

一方で、熱帯雨林を木材生産に利用する場合には、バイオマスを減らさずに、また野生動物の生息環境を維持しながら木材を生産できる。しかしこのような持続可能な林業を熱帯で営むには、低インパクト伐採(林地へのインパクトを少なくする伐採)を行うための高度な管理技術と、コストに見合うだけの大きな森林面積が必要とされる。
 

こうした林業がマレーシアやインドネシアで行われてはいるが、その担い手は大きな資本力がある企業だ。これに対して、管理が容易で生産間隔も短いアブラヤシやゴムノキは、事業規模にかかわらず収益性が高い。このため、熱帯林が次々にアブラヤシ農園やゴムノキ植林地などに転換されているのだ。

この低インパクト伐採(いわゆるRIL、Reduced Impact Logging)によって熱帯林の消失が防げるなら、それはたいへん喜ばしいことですが、そういうものは実際には林業会社が伐採を続けるための免罪符でしかありません。林業会社は彼らの木材を輸入してくれる先進国に対して、販売を継続するために言い訳をしなければならないことから低インパクト伐採という概念が生まれてきたわけですが、あれこれ言い訳をしながら木を伐採し続けていることに何ら変わりはなく、伐採や集材による森林生態系への攪乱は十分に大きなものです。

実効性のある低インパクトを実現しようにも、熱帯林の巨木を森林生態系へ大きな攪乱を起こさずに経営的に許容されるコストで集材する技術など現時点では存在しないのですから、どうすることもできません。

それでも、現実問題として林業会社もインドネシアの人々も資源を売って食べていかなければならないわけで、どうすればインドネシア人の生活と森林を同時に守れるのかというのは非常に重要な課題です。この一見難解な問題の答えは意外にも日本の森林にあり、日本の森林こそがこの問題を解決した成功事例なのです。その答えは人工林を造成してそれを持続的に利用していくことです。人工林を活用したインドネシアの新たな林業はすでに始まっています。

これまでインドネシアの木材産業はカリマンタン島やスマトラ島など外地の天然林伐採に依存することで利益を上げていましたが、木材利用のための伐採、山火事、オイルパームのプランテーション開発などで資源が枯渇に近づいている天然林に代わって、早生樹人工林からの木材収穫が本格化しています。早生樹人工林のプランテーションによって、天然林の伐採が抑制できるのであれば、オランウータンの生息する森林環境の保全にも寄与できます。

人工林による木材生産を本格化させている香川県に本社のある南海プライウッド株式会社さんの現地法人(PT. Nankai Indonesia)での取り組みを紹介します。

同社のルマジャン工場に隣接してファルカタの植林地(上)があり、一部にはカランパヤンも植えられていました。



ジョンボック(Jombok)植林地におけるカランパヤンの植林風景(上)です。下刈り作業(下)が行われていました。



バナラン植林地では地域住民の土地を借りてファルカタが植林されています。ファルカタの木の下ではアグロフォレストリーの試験が行われていました。パパイヤ(上)、サトイモ(下)が生産されています。



2013年に私がPT. Nankai Indonesiaさんを訪問させていただいたときに以下のようなメモを残しています。このメモは同社を訪問後にインドネシアで取り組むべき研究課題をメモしておいたものです。これはジャワ島の話なので、カリマンタンやスマトラとはまた状況が違うのですが、人工林の利用で熱帯林を守るという試みが成果をあげつつあることは多くの人に知ってもらいたいです。

1. インドネシアではファルカタとカランパヤンのような成長の早い樹種の人工林の利用が急速に進んでいるが、1億4000万人を超える人口を抱えるジャワ島では、人工林を造成するためのまとまった土地を見つけるのは困難である。そこで必要なのは適切な密度管理によって土地面積当たりの収穫量を上げることである。日本にはスギやヒノキで培った密度管理の技術があるので、この考え方をインドネシアの早生樹に応用できる可能性がある。

2. ジャワ島東部の山間部の農家がファルカタとカランパヤンを植え始めていた。これはファルカタとカランパヤンの利用が本格化したここ10年くらいで始まったようだが、田んぼや畑よりも収益が上がるのかどうかが興味深い。そのような農家の一部ではアグロフォレストリーも実践されているが、樹木の下で農作物を育てようとすれば、人工林の密度をある程度緩和する必要があり、密度管理による土地利用の最適化を考えなければならない。このような農林業の複合経営を行っている農家の経営分析を行うことで、早生樹の育成を採り入れた山村発展モデルを考えてみたい。

3. ファルカタとカランパヤンのような早生樹は必ずしも平地に植えられているわけではなく、斜面に植えられた木の効率的な搬出方法を考えなければならない。インドネシアでは近年労働者の最低賃金が急上昇しており、いつまでも人海戦術に頼った作業を続けることは経営的に不可能だろう。インドネシアの人工林の収穫作業をコストと環境を勘案しながらどのようにして機械化していくかはインドネシア林業の重要な課題である。