2017年6月25日日曜日

「林道」「林業専用道」「森林作業道」の中で必要のないものはどれか?

平成21年度 森林・林業白書」によると、日本の林内路網密度は17m/ha(林道等13m/ha、作業道等4m/ha)で、オーストリアの89m/ha(林道等45m/ha、作業道等44m/ha)、ドイツの118m/ha(林道等54m/ha、作業道等64m/ha)に比べて大きく劣っています。ヨーロッパのタワーヤーダがどんなに機能的に優秀でも、それを使うための道がなければ使えないというのが現実で、日本でタワーヤーダが普及しなかったのは林道がなかったからというのも大きな要因です。

これまで林道はたくさん作ってきたはずですが、それらはいったいどこに行ってしまったのか?と疑問に思ってしまうほど現実に山には使える林道がありません。一方で、山間部には当初は林道として開設されたけれども、今ではアスファルトで舗装され、ガードレールが取り付けられて、一般車両がふつうに走っている「公道」が存在しています。それには、林道予算を活用して山間部の自治体が生活に必要な道路整備を行ってきた背景があるわけですが、公道に「格上げ」された林道は森林作業を行うには使いにくい(使えない)道になってしまいました。

なぜなら、谷側にはガードレール、山側にもコンクリートの擁壁があるため道から林内への進入や索張りが制限されます。舗装された公道をクローラ車は走れないし、一般車両の交通を遮断するような集材作業もできなくなります。そもそも、公道と林道とは求められる要件が異なりますが、両方を同時に追い求めてきたことが失敗だったと言えるでしょう。

その要件がどういうものかと言えば、林道は必ずしも2点間を最短距離で直線的に結ぶ必要はないので大規模なトンネルや橋梁は必要としないし、林地との接続を分断するガードレールや擁壁は邪魔なだけだし、カーブミラーや標識もなくてもよいし、舗装の必要性もきわめて局所的かつ限定的です。公道は集落間をできるだけ直線で(最短距離で)連結する必要があり、ドライバーの運転技量も様々で必然的に交通量も多くなるので、安全性に対する要求水準が非常に高くなります。ほとんどの一般車両はオフロード走行を前提としていないし、移動の快適性や走行性を考えれば、路面に舗装が必要なのは言うまでもありません。

日本の林道整備を担っていた(森林開発公団→緑資源公団→)緑資源機構が公共事業に対する強い逆風が吹く中談合事件で解体され、日本の林道整備はどうなるのかと懸念されていたところで「森林・林業再生プラン」が発表されて、「林業専用道」という新たな林道区分が打ち出されました。林業専用道の位置付けは、近畿中国森林管理局によると以下のようなもので、林道と森林作業道の間を補完するものになっています。

林道・・・・・・・・・・・・原則として不特定多数の人が利用する恒久的公共施設であり、森林整備や木材生産を進める上での幹線となるもの。

林業専用道・・・・主として特定の者が森林施業のために利用する恒久的公共施設であり、幹線となる林道を補完し、森林作業道と組み合わせて、森林施業の用に供する道をいい、普通自動車(10トン積程度のトラック)や林業用車両(大型ホイールタイプフォワーダ等)の輸送能力に応じた必要最小限の規格・構造を持つことにより、森林作業道の機能を木材輸送の観点から強化・補完するものである。

森林作業道・・・・特定の者が森林施業のために利用するものであり、主として林業機械(2トン積程度の小型トラックを含む。)の走行を予定するものである。また、集材等のために、より高密度な配置が必要となる道であり、作設に当たっては、経済性を確保しつつ丈夫で簡易な構造とすることが特に求められる。

林内路網・・・・・・・林道、林業専用道、森林作業道等、場合によっては公道等を含む道の総称である。


図-1 林業専用道と森林作業道のイメージ図(出典:http://www.rinya.maff.go.jp/kinki/seibi/romou_seibi/1_.html)
 
日本林業の生産現場の課題に、フォワーダから山土場で3トントラックへ積み替え、さらに中間土場で10トントラックに積み替えることで2度の積み替えが発生しているということがあります。作業道とクローラ型フォワーダを組み合わせた日本のガラパゴスシステムは生産性の観点では決してお勧めできないのですが、ヨーロッパ並の林内路網がすぐに整備できるわけではないし、生産現場にようやく根付き始めてきた方法を急激に変えることも無理な状況で、どうやって現状を改善していくか現実的な答えを出さなければなりません。その答えとなる林業専用道がどういう意味を持つのかおさらいしておきましょう。

図-2は高性能林業機械を導入した現場で見られる日本林業の典型的な材の輸送システムですが、クローラ型フォワーダで搬出した材を幅の狭い公道との接続部にある山土場で3トントラックに積み替え中間土場まで運搬し、そこで10トントラックに積み替えるというものです。この場合、2度の積み替えが発生します。

図-2 日本の典型的な材の輸送システム

そこで、作業道を中間土場のある幅の広い公道に接続したのが図-3です。これによって材はクローラ型フォワーダから10トントラックへ直接の積み替えが可能になります。しかし、走行速度の遅いクローラ型フォワーダによる運搬距離が伸びることで生産性が大きく低下します。作業道の開設費や開設時間も余分に必要になります。

図-3 フォワーダによる材の運搬距離が長い林内路網

図-4は広い公道から山土場まで林業専用道で山の中腹をぶち抜いたものです。これならば、クローラ型フォワーダから10トントラックへ直接の積み替えが可能になるばかりでなく、クローラ型フォワーダによる運搬距離が伸びることもありません。山の中腹から上下方向に作業道でアクセスできるので、クローラ型フォワーダによる運搬距離はさらに短縮されます。このような道ができることで、ヨーロッパの高性能なタワーヤーダの利用も可能になり、林業専用道の上下方向に索張りをすることで広範囲の集材をすることも、10トントラックを直付けして積み替えずに輸送することも可能になります。

図-4 林業専用道を導入した林内路網

国土が広大なアメリカでは材を数百キロ離れた場所まで運搬することもふつうであり、輸送効率が生産コストに直結しています。それゆえに、現地の学会に参加すると大型トレーラーがトピックになることしばしばですが、森林利用学会の研究発表会ではあまり議論されていないのではないかと思います。(時々北海道の話が出てくるのは、やはり北海道が広くて輸送の効率性が課題になっているから?)

写真1~7はカリフォルニア州北部のスイングヤーダによる集材現場からトレーラーが材を運び出す一連の作業の様子です。アメリカに行くといつも日本の林業との規模の違いに圧倒されますが、林業ビジネスとしての本質に差異はなく、大きな運搬車で効率よく材を運んだ方が有利になるのはアメリカも日本も同じです。日本の林業関係者はもっと材の輸送のこと(そして流通のこと)を考えるべきです。

写真-1 スイングヤーダによる集材作業

写真-2 方向転換中のトレーラー

 写真-3 グラップルで後輪を持ち上げ

写真-4 後輪を連結して完成

写真-5 グラップルによる材の積み込み

写真-6 前方から見た積み込み中のトレーラー

写真-7 材を満載して出発するトレーラー

ここで、物流の合理化で先行するイオンの事例を見てみましょう。松江にあるイオンのスーパーマーケットに富山県産の魚(や刺身)が売られていたりすると、なぜ富山県の港に水揚げされた魚をわざわざトラックで(魚の豊富な)山陰まで運んで来るのだろうか、どうしてそれで利益が出るのだろうかと考えさせられます。それはもちろん魚の重量当たりの付加価値が大きく、トラックによる輸送コストが相対的に小さいことが大きいでしょう。一方、木材は体積や重量当たりの利益が魚に比べればわずかしかないので、トラック輸送にコストがかかればすぐに赤字になってしまいます。生鮮食品は鮮度の維持の観点から地産地消が有利になりますが、木材もまた輸送コストの観点から地産地消に優位性があると言えるでしょう。輸送の観点では、国産材は外材に比べて圧倒的に有利な条件にあるのだから、外材との競争では地の利を最大限に生かしたビジネス展開が必要であり、そのための林業専用道とも言えそうです。

写真-8 イオンの刺身(出典:https://www.aeonnetshop.com/shop/goods/goods.aspx?goods=120000000615002751271000000)
 
これまで曖昧になっていた林道と公道の役割分担を明確にした林業専用道への期待は大きいのですが、現実にはその開設の動きはとても鈍いように見えます。その理由をいくつかの林業現場で尋ねたところ、人も資金も技術も余裕もない森林組合にはこういう比較的大規模な道を作るのは荷が重いという話が聞こえてきました。林業専用道の事業主体は都道府県、市町村、森林組合等とされていますが、林業専用道は行政が責任を持って地域のニーズに基づき長期的な視点で計画的に開設し、森林組合は森林作業道の開設のみを担うという役割分担が必要ではないかと思っています。

森林利用学会にはかつてモノレールを含めた複合規格路網という話題もありましたが、そもそも林道には多くの規格が必要なのでしょうか?川上は流量が少ないので道も小さく、川下は流量が大きくなるので道も大きくという考え方で、複数の規格の林道を合理的に組み合わせるという考え方が今でもスタンダードだと思われますが、材を輸送する車両の「流量」は一般の交通量に比べてとても少ないので、川下と言えども大規模林道、スーパー林道、緑資源幹線林道、森林基幹道のような道は必要ではありません。むしろ、林道の規格が小さいものから大きいものへと変化する中で、材をより大型の車両に積み替えるコストが問題になっていることを考えると、林道の規格は思い切って整理してしまってもよいはずです。

現状の林道区分の中では、(原則として不特定多数の人が利用する恒久的公共施設であり、森林整備や木材生産を進める上での幹線となる)「林道」という区分はもはや必要ないと考えています。つまり、林道として必要なのは林業専用道と森林作業道の2つの規格であり、山間部の集落間を連結する道や観光に資する道は林道としては廃止して、林道と公道の役割分担を明確にすべきということです。それによって、林業専用道への集中投資を実現して、その開設を加速していく必要があると考えます。