2015年9月13日日曜日

土佐の森方式軽架線キットをスイングヤーダで使ってみたらどうなるか?

自伐型林業が日本林業の新たな潮流となりつつあります。近年の日本林業は、欧州林業に負けない生産性を実現しようと、森林組合による林地の集約化、高性能林業機械の導入、そして作業道の整備が行政の補助金を集中投下することで推進されてきました。しかし、それに反旗を翻したのが自伐型林業と言えるかもしれません。

「New自伐型林業のすすめ」(全国林業改良普及協会発行、中嶋健造編著)によれば、New自伐型林業は以下のように定義されています。

New自伐型林業とは、山林所有の有無、あるいは所有規模にこだわらずに、森林の経営や管理、施業を自ら(山林所有者や地域)が行う、自立・自営型の林業であり、限られた森林が所在する地域で暮らし、その森林を永続管理し、持続的に収入を得ていく林業です。

New自伐型林業のすすめ
Posted with Amakuri
中嶋健造 編
全国林業改良普及協会
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自伐型林業によって活力を失った農山村が蘇生する効果はとても大きなものがありますが、 私は自伐型林業が日本林業の主流になるとは少しも思っていません。むしろ、集約化、基盤整備、機械化こそがメインストリームだと思っており、これらを合理的な判断によって正しい方向に進めて行くべきです。(現状ではそうなってはいませんね。)

「森林・林業・環境機械展示実演会」(一般社団法人林業機械化協会主催)にここ数年毎年参加していますが、会場には多くの林業機械が並び多数の来場者で賑わっているように見えます。しかし、実はそこにある林業機械の多くが海外製であることにお気づきでしょうか?日本の国産林業機械はほぼ終わっています。日本は世界有数の山岳国なのに、主力となるべき国産タワーヤーダはほとんど見られず、その代わりにスイングヤーダが多数展示されています。

日本林業の弱点はたくさんありますが、その一つはスイングヤーダの生産性が低いことにあると思っています。スイングヤーダの現場での使われ方を見ていると、搬器を使わずに直引きが行われているケースがかなり多いのではないでしょうか?これでは生産性が上がるわけがなく、スイングヤーダは搬器とセットで使うことが生産性向上の最初の一歩になります。

日本のスイングヤーダはそれなりに種類があって、どれにしようかと選ぶのに困るほどですが、搬器はほとんど皆無というのが日本林業の不思議です。日本の架線集材は伝統的に複雑な索張りに頼っているので、搬器の高度化についてほとんど実績がありません。このままでは日本の林業が欧州の生産性に追いつくことなどできるわけがないのに、未だ搬器の重要性が認識されていないかのようです。

昨年「2014森林・林業・環境機械展示実演会」へ行って、コマツの展示場でスイングヤーダの説明をきいたのですが、ここでもやはり搬器に関しては全く興味がないようでした。コマツとしての仕事はスイングヤーダ本体を作ることまでで、搬器は林業側の工夫に任せているとのことでしたが、必要なことは建機メーカーと林業サイドの役割分担ではなく、いっしょによいものを作っていくというコラボレーションだと思っています。

写真-1 世界のコマツのスイングヤーダ

写真-2 これでは何もできない残念な搬器

さて、直引きから搬器を使ったシステムへと進んだときに最初に考えられるのはいわゆる日本の「スラックライン式」というシンプルな上げ荷専用の索張り方式でしょう。この方式は必要に応じて上げ下げできるスカイライン(ライブスカイライン)と、スキディングラインを兼用したメインラインから構成されるシンプルなものです。本来搬器にはクランプ機構が必要なのですが、そういう搬器が日本ではなかなか見つからないのです。

図-1 スラックライン式

写真-3 スラックライン式による上げ荷集材

クランプ機構がないと、材を引き上げるのは非常に難しくなります。スカイラインに沿って引き上げる力がかかることで搬器が逃げるので、材の端上げができなくなり、その結果集材中に材が伐根にぶつかったり地面にめり込んだりして、効率よく材を引き上げることができません。

写真-4 鼻上げができず地面を引きずられる材

 図-2 スラックライン式で搬器が上に逃げる状態

端上げをするためには、搬器にひもをつけて立木に結びつけたりキトークリップを使って搬器をスカイラインに固定するなどの工夫が必要になります。


図-3 横取り中搬器を固定することで鼻上げを実現

 写真-5 鼻上げによるスムーズに引き上げられる材

日本にはクランプ機構を持った搬器がほぼ存在しないので、スイングヤーダを導入しても搬器に関してはどうすることもできないわけですが、自伐型林業で使われている「土佐の森方式軽架線キット」(←必見です)の搬器を使ってみてはどうかと思いました。このキットは高知県の綱屋産業株式会社から20万円で販売されています。

この搬器は厚さ1cmくらいの鉄板に穴を開けて、滑車を取り付けただけのものですが、動滑車を使って力を3倍にしているので、小さな力で大きな材を引き上げることが可能になります。そして、この索張りのハイライトは「スラックライン式」でも搬器が逃げないため端上げ集材が可能になることです。そのため簡易な索張りながらスムーズな材の引き上げが可能になります。

 図-4 土佐の森方式軽架線キットによる3倍型の索張り

このような索張り方式は特に新しいものではなく、四国には昔から存在していたという話を高知大学の先生から聞きました。メインラインの一端を搬器に固定して動滑車により引き上げる力を2倍にする方法は徳島県の「新間伐システム作業マニュアル」の6ページにも書かれています。「林業機械学」(文永堂出版、大河原昭二編)に載っているフォーリングブロック式もメインラインの一端を搬器に固定するタイプです。


図-5 動滑車による2倍型の索張り

このような動滑車を使った2倍型、3倍型の索張りをすることで、搬器が逃げなくなり少ない力で重い材が引き上げられ鼻上げでスムーズな集材が実現します。林業技術の進歩には温故知新が必要だとあらためて思いました。過去の埋もれた技術の中に未来の革新的技術のシーズとなりうる要素があるからです。ちなみに、私が今注目しているのは循環型の索道です。

写真-6 現在の島根県益田市にかつて存在した索道

写真-7 現在の島根県益田市にかつて存在した索道

さて、土佐の森方式軽架線キットをスイングヤーダで使ってみる試みが、2015年9月3日に島根県隠岐の島町で開催された「木材生産技術研修会」(隠岐支庁・隠岐流域林業活性化センター主催)で実現しました。このイベントではこのキットを実際に使っている仁多郡林業研究グループの方に道具を持ってきていただき使い方を指導してもらいました。やはり、この搬器をスイングヤーダで使った経験はないとのことでした。

残念ながら、今回の現場では土佐の森方式軽架線キットの3倍型の索張りにはなっておらず、2倍型の索張りになっていました。ただ、このシステムが通常使われている林内作業車やロープウインチと比べてスイングヤーダは強力なので、この方法でも材を引き上げるのに全く問題はなかったです。

写真-6 土佐の森軽架線キットの搬器と索張り

現場で使用されていたスイングヤーダは日立のZAXIS 70+イワフジのTW-232Aです。いわゆるコンマ25クラスの今の時代ちょっと非力かなと思われるものですが、材は引き上げられるのでしょうか?

 写真-7 使用されたスイングヤーダ

最初にトライした短材は直径が大きいものでもわけなく引き上げられました。さすがはスイングヤーダです。

写真-8 林道上に引き上げられた短材

それでは全木材はどうでしょうか?この大きな木まるまる1本がスムーズに林道まで上がってきました。この現場は小面積の皆抜で、傾斜は25~30度の間くらい、集材距離は30~40mくらいでした。横取り距離は最大10m弱だったと思います。

 写真-9 全木材を横取りして引き上げている様子

 写真-10 林道上での荷外し

林道まで引き寄せられた材はスイングヤーダのグラップルで掴んで林道上に完全に引き上げられました。こういう使い方ができることがスイングヤーダの利点ではありますが、実はその間に搬器が止まってしまうので、作業全体の効率は下がってしまうということは意識しておきたいです。オーストリアの集材作業では材をコンビネーション型タワーヤーダのプロセッサで掴んだら搬器はすぐに先山に戻っていくので時間のロスがありません。

 写真-11 スイングヤーダが材を林道上に引き上げている様子

 写真-12 林道上に引き上げられた材

写真-13 チェーンソーで玉切りしている様子

スイングヤーダに土佐の森方式軽架線キットを使う試みはうまくいったと思います。こんな薄い鉄板では無理ではないかという声もありましたが、そんなこともありませんでした。日本の林業機械開発に欠けているのは土佐の森方式軽架線キットに見られる合理性だと思います。材の大径化に対応できなくなっていると言われるスイングヤーダですが、これがあればまだまだ使えると思いました。

林業における集材技術というのは理論や計算では予測ができず、「やってみないとわからない」ことが多々あると思っています。今回は林道のそばでの集材でしたが、この方法はどのくらいの集材距離・横取り距離まで対応できるのかという疑問があります。これもまたぜひやってみたいです。

3 件のコメント:

  1. 吉村先生 索張りに関わる”地曳き”の弱点を克服する技術的な改良が”温故知新”の方向で進められたとのこと、興味深く拝読させていただきました。集材距離に関する検討課題など、現場での具体的な検討が進められることを祈念します。 北川勝弘(2015-09-14)

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  2. 岐阜で森林技術者をしている者です。この搬器参考になりました。機会あるときに0.45スイングヤーダで実証してみようと思います。

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