JBPRESSに「日本人こそ知っておくべき熱帯林消失の現状 東南アジアの森林を守るために何が必要なのか」という記事がありました。東南アジアの熱帯林の現状を知るにはたいへんわかりやすい記事で、日本人の豊かな生活のために東南アジアの熱帯林が今も破壊されている事実はこれを読んで知っておくべきだと思います。
ただ、この記事に私にはこれは違うと思われる点があります。しかも、それが「どうすれば熱帯林の消失を食い止められるのか」という肝心なところなのです。この記事の著者が専門外のことを書いているのだから仕方がないのでしょうが、低インパクトを導入すれば熱帯林の消失を食い止められるというのは間違いだと思います。
どうすれば熱帯林の消失を食い止められるのか
アブラヤシ農園や植林地では、バイオマス(炭素のストック)が減少するだけでなく、アジアゾウなど多くの野生動物が暮らせない。植物種の多様性もほぼ消失する。
一方で、熱帯雨林を木材生産に利用する場合には、バイオマスを減らさずに、また野生動物の生息環境を維持しながら木材を生産できる。しかしこのような持続可能な林業を熱帯で営むには、低インパクト伐採(林地へのインパクトを少なくする伐採)を行うための高度な管理技術と、コストに見合うだけの大きな森林面積が必要とされる。
こうした林業がマレーシアやインドネシアで行われてはいるが、その担い手は大きな資本力がある企業だ。これに対して、管理が容易で生産間隔も短いアブラヤシやゴムノキは、事業規模にかかわらず収益性が高い。このため、熱帯林が次々にアブラヤシ農園やゴムノキ植林地などに転換されているのだ。
この低インパクト伐採(いわゆるRIL、Reduced Impact Logging)によって熱帯林の消失が防げるなら、それはたいへん喜ばしいことですが、そういうものは実際には林業会社が伐採を続けるための免罪符でしかありません。林業会社は彼らの木材を輸入してくれる先進国に対して、販売を継続するために言い訳をしなければならないことから低インパクト伐採という概念が生まれてきたわけですが、あれこれ言い訳をしながら木を伐採し続けていることに何ら変わりはなく、伐採や集材による森林生態系への攪乱は十分に大きなものです。
実効性のある低インパクトを実現しようにも、熱帯林の巨木を森林生態系へ大きな攪乱を起こさずに経営的に許容されるコストで集材する技術など現時点では存在しないのですから、どうすることもできません。
それでも、現実問題として林業会社もインドネシアの人々も資源を売って食べていかなければならないわけで、どうすればインドネシア人の生活と森林を同時に守れるのかというのは非常に重要な課題です。この一見難解な問題の答えは意外にも日本の森林にあり、日本の森林こそがこの問題を解決した成功事例なのです。その答えは人工林を造成してそれを持続的に利用していくことです。人工林を活用したインドネシアの新たな林業はすでに始まっています。
これまでインドネシアの木材産業はカリマンタン島やスマトラ島など外地の天然林伐採に依存することで利益を上げていましたが、木材利用のための伐採、山火事、オイルパームのプランテーション開発などで資源が枯渇に近づいている天然林に代わって、早生樹人工林からの木材収穫が本格化しています。早生樹人工林のプランテーションによって、天然林の伐採が抑制できるのであれば、オランウータンの生息する森林環境の保全にも寄与できます。
人工林による木材生産を本格化させている香川県に本社のある南海プライウッド株式会社さんの現地法人(PT. Nankai Indonesia)での取り組みを紹介します。
同社のルマジャン工場に隣接してファルカタの植林地(上)があり、一部にはカランパヤンも植えられていました。
ジョンボック(Jombok)植林地におけるカランパヤンの植林風景(上)です。下刈り作業(下)が行われていました。
バナラン植林地では地域住民の土地を借りてファルカタが植林されています。ファルカタの木の下ではアグロフォレストリーの試験が行われていました。パパイヤ(上)、サトイモ(下)が生産されています。
2013年に私がPT. Nankai Indonesiaさんを訪問させていただいたときに以下のようなメモを残しています。このメモは同社を訪問後にインドネシアで取り組むべき研究課題をメモしておいたものです。これはジャワ島の話なので、カリマンタンやスマトラとはまた状況が違うのですが、人工林の利用で熱帯林を守るという試みが成果をあげつつあることは多くの人に知ってもらいたいです。
1. インドネシアではファルカタとカランパヤンのような成長の早い樹種の人工林の利用が急速に進んでいるが、1億4000万人を超える人口を抱えるジャワ島では、人工林を造成するためのまとまった土地を見つけるのは困難である。そこで必要なのは適切な密度管理によって土地面積当たりの収穫量を上げることである。日本にはスギやヒノキで培った密度管理の技術があるので、この考え方をインドネシアの早生樹に応用できる可能性がある。
2. ジャワ島東部の山間部の農家がファルカタとカランパヤンを植え始めていた。これはファルカタとカランパヤンの利用が本格化したここ10年くらいで始まったようだが、田んぼや畑よりも収益が上がるのかどうかが興味深い。そのような農家の一部ではアグロフォレストリーも実践されているが、樹木の下で農作物を育てようとすれば、人工林の密度をある程度緩和する必要があり、密度管理による土地利用の最適化を考えなければならない。このような農林業の複合経営を行っている農家の経営分析を行うことで、早生樹の育成を採り入れた山村発展モデルを考えてみたい。
3. ファルカタとカランパヤンのような早生樹は必ずしも平地に植えられているわけではなく、斜面に植えられた木の効率的な搬出方法を考えなければならない。インドネシアでは近年労働者の最低賃金が急上昇しており、いつまでも人海戦術に頼った作業を続けることは経営的に不可能だろう。インドネシアの人工林の収穫作業をコストと環境を勘案しながらどのようにして機械化していくかはインドネシア林業の重要な課題である。
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