スイングヤーダは森林組合に多く導入されていますが、搬器を使った索張りを避けて単線直引きによる集材作業が広く行われています。このような原始的な方法では集材効率は上がるわけがないのですが、比較的小面積の事業地では道からの距離が20~30m程度といった現場も多く、搬器を使った索張りをしなくても単線直引きで引っ張り出した方が早いと考えるのは間違っているようには思えませんが、実際のところどうなのでしょうか?
作業道上のスイングヤーダで単線直引きによる上げ荷集材を行う場合、材を道下まで寄せることはできるものの道上まで引き上げることはできません。そのため、この材をプロセッサに受け渡す次のプロセスは困難を極めることになります。長伐期化により大径材や長材が一般的になっていますが、このような材を直角に回して作業道上へ引き上げようとすれば残存木への衝突や損傷が避けられません。材を回せない場合はチェーンソーで玉切りするという余計かつ危険な作業が発生します。作業道が狭いと.25クラスのグラップルやプロセッサしか入れないため、そうなると機械の力不足によりこのようなチェーンソー作業は必然となってきます。その後なんとかプロセッサが材を掴むことができたとしても作業道は狭いので、ブームを振り回して枝払い・玉切りと言った造材作業を行うことは非常に困難です。この問題は単線直引きに限らず、作業道上でスイングヤーダ(あるいはウインチ)を使った列状間伐のような多点型集材を行えばほとんどの場合に発生します。
図-1 作業道上でウインチを用いた単線直引きによる上げ荷集材作業
一方、ヨーロッパのタワーヤーダは最大横取距離までの集材を終えた後、林道上を移動して隣の伐区で再び同様の集材作業を行います。タワーヤーダがこのような短時間の張り替えによる多点型集材を得意としていることは今さら言うまでもないことです。ヨーロッパのタワーヤーダは幅員4mはある幅の広い林道上で作業を行うため、ブームを振り回すプロセッサによる造材作業にも支障はありません。ヨーロッパで広く普及しているKONRAD社のWOODYシリーズ(ハーベスタ)であれば、ローラーによる送材力が大きいため、道端の材をいとも簡単に引き上げることができます。
図-2 ヨーロッパで普及しているWOODYハーベスタ
(出典:http://www.forsttechnik.at/en/products/woody-harvester.html)
さらには、コンビネーション型タワーヤーダを使えば集材作業の最難関とも言えるタワーヤーダからプロセッサへの材の受け渡しは最大レベルでスムーズに行われます。ヨーロッパにおいて集材作業の一連のプロセスが合理的に最適化されていることにあらためて深い感動を覚えます。
図-3 コンビネーション型タワーヤーダSyncrofalke
(出典:http://www.mm-forsttechnik.at/de/syncrofalke/performance.php)
日本のスイングヤーダはヨーロッパのタワーヤーダを模した多用途型の林業機械ですが、作業道が狭いのでヨーロッパのタワーヤーダのように林道上を移動しながら次々に張り替える多点型作業には不向きであることはすでに述べた通りです。日本のスイングヤーダは他の多くの林業機械と同様にヨーロッパの林業機械の「亜種」なのですが、この点においてもヨーロッパのタワーヤーダ技術の本質を理解せずに外形だけをコピーして失敗していると言えるでしょう。
さて、日本のスイングヤーダの生産性が思うように上がらない一方で、昔ながらの集材機による集材作業の生産性が高くコストも低いのはなぜなのか考えさせられますが、これは集材機の性能が高くて優れているというわけではありません。近年集材機を見直そうという機運が林業界にありますが、集材機は時代遅れの過去の遺物でしかないので、その必要は全くありません。集材機が優れているのは、低い機械コストと索張りです。索張りと言ってもエンドレスタイラーが優れているとわけではもちろんありません。それでは何が優れているのかと言えば、まとまった量の材が一点に集中して出てくるということです。これは、先に述べたようなスイングヤーダによる多点型集材で作業道に沿って道端に少量の材がばらばらに出てくるのとは対照的と言えるでしょう。
材が一点に集中して出てくることでどのようなメリットが生まれるのかと言えば、そこに広い土場を作っておくことでプロセッサによる造材、材の集積・仕分け、そしてトラックへの積み込みという一連のプロセスがスムーズに進行することです。残材などバイオマスの収穫にも有利です。これこそが高性能林業機械の3点セットに作業道を加えた4点セットが苦手とするところであり、集材機作業に優位性があると言えます。この土場を大型トラックが走行できる公道のそばに作れば、材の輸送コストも大幅に圧縮できます。
このような一点集中型の方式はスイングヤーダの集材作業でも大いに採用を検討すべきで、フォーリングブロックなどの索張りを使ってみてはどうかと考えています。タワーヤーダであれば、この方式によっていっそう効率のよい集材作業が可能になるでしょう。この場合、公道そばにある土場までの下げ荷集材が後の運材プロセスへの連続性の観点から有利です。2013年に島根県浜田市で開催された森林利用学会の現地見学会で行われていたのは、まさにそういう作業でした。
図-4 IHIのタワーヤーダによる下げ荷集材
図-5 運材プロセスにスムーズに接続する下げ荷集材が有利
一方、4点セットではフォワーダが間に入るので、集材機に比べると材の輸送コストが非常に高くなるという問題が生じます。フォワーダは走行速度が遅く、積載量も少なく、メンテナンスコストが高く、実は事故も多発しているといった問題が知られていますが、ここでは4点セットの課題となっている作業の連続性について考えてみます。
図-6 フォワーダによる積み込み作業
多くの作業道には運材トラックが入れないため、クローラ式のフォワーダが使われますが、この場合トラックへの材の積み替え作業が発生します。輸送プロセスに積み替えという断絶が生じるという意味において、フォワーダというのは現代の森林鉄道とも言えます。森林鉄道は輸送プロセスに断絶のないトラックに合理的に置き換わってきたのに、今また作業道という「線路」を敷いてフォワーダという道路を走れない「貨車」を導入することで時代が逆戻りしているようにも思われるのです。
クローラ式のフォワーダは舗装された公道を走れないので、作業道入口の土場が3トントラックしか入れない公道に接続していた場合、そこで材を3トントラックに積み替えて広い公道に面した土場まで運搬し、そこで再び15トントラックに積み替えて出荷するという運搬システムも実際に行われています。こういう方法は、運材トラックが集材現場まで直接進入して材を運び出すヨーロッパに比べて明らかに効率が悪く、高コストであると言えます。日本林業は生産性が低い割に現場に機械が多過ぎる(機械が多過ぎるから生産性が低い)という指摘があり、フォワーダをなくした方がそれ自体のコストを含めて有利になります。
最後は日本の作業道についてです。森林組合が開設する作業道に対して行政が2,000円/m程度の補助金を出すので、現場は足が出ないように2,000円/m以下のコストで作業道を作ろうとします。そうして作られた作業道はフォワーダ限定の道で幅はぎりぎりで排水処理なども十分ではなく、一時的な使用を想定した道なので森林生産のための生産基盤(林道網)とはなりえません。わずかな材を搬出するために山を切り刻んで新たな崩壊要因(災害要因)を作ることは決して合理的とは言えないでしょう。
図-7 スリップ防止のために枝条を敷いた作業道
補助金というのは本来国際競争力の低い日本林業を産業として強化するための後押しに使われるべきものなのに、現実には作業道を名目にしたばらまきとなって森林組合の経営努力や自助努力、そして自立そのものを阻害しています。使い捨ての道のために補助金を出すのではなく、生産基盤となる恒久的な道に出して欲しいと願わずにはいられないです。
高性能林業機械と作業道の4点セットに熱狂しながら、これまで日本の林業機械化は進んできましたが、生産性が思うように上がらなかった現実を受け入れ、これまで何が間違っていたのかを考え総括する必要があります。その答えは日本とヨーロッパの林業機械化を多面的に比較することで見えてくるでしょう。そしてもう一点、作業道に対する勘違いが日本の林業現場に蔓延しているようなので、それが本来どういうものだったのか、「写真図解 作業道づくり」(大橋慶三郎・岡橋清元著、全国林業改良普及協会発行)あたりを読んで再確認してもらいたいと思っています。